労務管理
残業時間の切り捨て計算
よくあるご質問
従業員の残業時間を計算するとき、15分単位を切り捨てて丸めて計算する(例えば、残業時間が30分の場合は、15分として計算する)ことは、問題ありますか?
よくある例
従業員を残業させた場合、残業代を支払う必要があります。会社としては従業員が残業した場合にはその時間を記録し、毎月の残業時間を集計して残業代を支払わなければなりません。しかし、実際には次のように処理をしているケースがよく見られます。
問題事例1
タイムカードはあるが、残業時間は手計算で計算している。その際、15分単位を切り捨てて丸めて計算している(タイムカードの残業時間が30分の場合、15分として丸めて計算している)。
問題事例2
残業時間は従業員に申告させている。その際、15分単位を切り捨てて提出するように指導している。
問題事例3
残業時間は従業員に申告させている。明確に指導している訳ではないが、15分単位を切り捨てて提出するのが慣例となっており、全員そうしている。
★ 何故会社はこのような処理をするのでしょうか?
処理がラクだし、少しでも残業代を節約したいというのが本音だからです。
「昼間ダラダラ仕事をしているから残業時間ばかり増える。もっときちんと仕事をすれば、残業時間は短くて済むはずだ。だから残業時間を丸めて計算するくらい、当然許されるでしょう」という社長もいます。お気持ちはとてもよく理解できます。
★ 法律的には残業時間を丸めて計算することはできない
しかし、ダラダラ仕事をしているという問題点は、業務効率の改善として取り組むべき問題であって、ダラダラ仕事をしているからといって、残業時間を勝手に短く計算して調整しても構わないということにはなりません。
法律的には、労働時間や残業時間は1分単位で正確に計算しておく必要があります。従って、毎日の残業時間を計算するときに、残業時間が30分なら15分というように切り捨てて丸めることはできません。31分なら31分、16分なら16分と1分単位で正確に計算することが必要です。もちろん、31分なら45分と、切り上げて丸める計算であれば問題ありません。しかし、そのような大盤振る舞いをする会社はまずないでしょう。要するに、従業員に不利な形で残業時間を丸めて計算することはできません。そのカットされた部分は、実際は残業時間であるにもかかわらず残業代が支払われない訳ですから、労働基準法第24条違反(30万円以下の罰金)となります。
労働基準監督署が調査に入った時や、県・市の一般指導監査の時(社会福祉法人の場合)にこの問題を指摘し、未払残業代を支払うよう指導するという例がよく見られます。
以下、有名な例を貼付しておきます。
■日本マクドナルド、残業時間切り捨て計算で是正勧告
http://statg.com/colu/arze.html
■アイシン精機、残業時間切り捨て計算で是正勧告
http://www.asahi.com/special/08016/NGY201004240002.html
正しい処理
【例1】 タイムカードはあるが、残業時間は手計算で計算している。
➡ タイムカードでの残業時間が30分なら30分として計算する。
【例2】 残業時間は従業員に申告させている。
➡ 残業時間は正確に申告するように伝える。
➡ 従前の取扱いを改めるので、15分単位の時間を切り捨てて申告する必要はない旨説明する。
なお、会社の指導にかかわらず、従業員が自主的にキリのよい時間で切り捨てて申告してくることは問題ありません。会社の側から「丸めろ」と言ってはならないのであって、従業員が必ず1分単位で申告しなければならない、という訳ではありません。
また、毎日の残業時間ではなく、毎月の合計残業時間を集計するときに切り捨て処理をすることは認められています。
★ 当事務所からのアドバイス
残業代節約のために会社がずるい処理をしている、と従業員に思われること自体が、従業員のモチベーションを下げます。会社がずるいことをしているから、我々も多少の手抜きは許されるという意識がまん延することになるのです。
無駄な残業は許さないし、効率よく仕事をするべきだ。しかし、必要な残業は認めるし、その場合は1分であろうがきっちりと残業代を支払う、という筋の通った経営姿勢が大切です。
【令和3年7月17日 社会保険労務士吉野コンサルティングオフィス 識】